さくらを吸う

 昨日、友人と電話で話していたら、こっちは桜が満開だ、とおかしなことを言う。春でもないのに、どういうことか。元々少し変なところがあった人だったが、ここまで変になってしまったか。秋桜のことか?と私が訊くと、そうではないらしく、最近発売された「さくら」という銘柄の煙草をプカプカ吸っていて、部屋の中がさくらの煙で満開なのだという。この「さくら」は、吸うとほのかな桜の香りがして、煙草の嫌なニオイがしないという。
 なるほど。煙草嫌いの人の前で吸う時にも遠慮なく吸えるではないか。それはいい。早速、煙草屋へ行くと、神奈川県限定発売で「さくら」が売られていた。価格が三百五十円と少し高めではあったが、購入。吸ってみると、微かにさくらの香りがして、悪くはない。
 新しいものを手にすると、試してみたくなるのが人情というもの。たまたま、煙草を吸わないNちゃんと食事をする約束をしていたので、そのNちゃんにわざと煙草の煙を吹きかけてみた。さくらの香りに驚き、そして感動すると思っていたのだが、返ってきた言葉は「なにするの!」だった。
「なにするのとはなんだ。せっかく感動させてやろうと思ったのに」
「いきなり、人に煙を吹きかけるなんて、最低。私が煙草嫌いだって知っているくせに」
「バカヤロウ。これは普通の煙草ではないのだ。さくらといってな、ほら、さくらの香りがほのかに漂っているだろう。おまえのつけている安物の香水よりこっちの方がいい香りがするってもんだ」
「なによ、安物だなんて。香りとかの問題じゃない。煙自体が嫌なのよ。本当に最低な古本屋」
「最低な古本屋とはなんだ。古本は関係ないじゃないか。それにおまえは・・・・」
 その後、煙草が原因で喧嘩になってしまったのだった・・・。