二時間半歩く

 まだ十二月でもないのに、最近は夜にお酒を飲む機会が多い。遊びならばいいのだが、仕事の関係で飲むことが大半である。この「しましまな日々」は夜に書くのが通例となっており、酒に酔ってはさすがにまともに書けず、最近は更新が滞りがちであったので、楽しみにしてくださっていた方には大変申し訳なく思う。
 先週か今週かはもう忘れたが、私は基本的に腰を据えて飲むのがいつもであり、否、そのような格好の良いものではなく、ただ、ダラダラと飲むのが好きなので、その日もつい終電を逃してしまった。タクシーで帰れば済む話なのだが、いつも私はまわりの者に、「常にコスト意識を持て」などと口酸っぱく言っている為、ここでタクシーなんぞに乗れるものか、自分が身を挺してお手本にならなければならないと勝手に酔った頭で考え、横浜から家まで歩くことを決意した。
 歩き始めたはいいものの、高速度で次々と後ろから走って来ては去って行くタクシーや一般の車に嫉妬を感じ、三十分も歩くと、深夜に一人で歩いている自分が妙に虚しく感じられ、また、酔っている足で歩いている為に疲労も感じ、タクシーに乗ろうかと少し迷うようになった。しかし、ここでタクシーに乗ったらいままでの苦労の意味が無くなってしまう。また、私は歩き出す。 幹線道路を歩いていると、意外と多くのパトカーが走っている。そうだ、と思う。夜道の一人歩きは危ないので、パトカーはか弱い私を家まで乗せてくれないのだろうか、とても素晴らしい公共サービスの活用ではないか。走っているパトカーが私の前に停車し、そこから警察官が降り来て、私に職務質問でもしてくれたなら思う壷である。ところが、このような時に限り、誰も私に職務質問をしてくれない。
 足が痛い。咽が渇いた。酔いもすっかり醒めてしまった。しかし、私は歯を食いしばり、結局二時間半かかって家まで歩いたのであった。
 タクシー代約五千円を節約することに成功したわけだが、まだ十月なのにこの調子であると、忘年会シーズンの十二月が末恐ろしい。もう二度と酔ってこの距離は歩きたくない。