男のロマン その3

前日の夜は出品作業や梱包発送の用意で時間を取られ、おおよそ二時間しか寝ることができなかったが、往復四時間かけての出張買取へ行った。体力勝負の出張買取だけに、帰宅した時には疲労の色が隠せない私であったが、そのような時こそ、男は勝負に出かける。勝負することこそが男の存在意義だからであり、私の魂を燃え上がらせるのだ。私は常に勝負を求める。その理由を唯一言うとすれば、それが男のロマンだからだ。
 今回のオペレーションは戦友と共に遂行した。それは、あるカレー屋さんの特大大盛カレーライスを二十分以内に制覇するという極めて困難なオペレーションなのであった。このオペレーションを成功させれば、カレーライス代が無料になるのだ。私は大決戦の前に、ひとつの作戦を立案した。それは、後半必ずお腹がいっぱいになって、苦しくなることは間違いないのであり、それを回避するため、緒戦ではご飯だけを食べ、お腹が苦しくなった終盤戦で一気にカレーを飲み込むという、ご飯とカレーを分断して個別撃破する作戦である。一方の戦友は、正攻法にご飯とカレーを同時に食べていくという、二正面作戦を考えているようであった。
 いざ戦闘が開始されると、予期できなかった状況に私達は攻撃の手を止められた。それは、ご飯とカレーの熱さであった。異常に熱いのである。熱くてまともに食べることができないのである。制限時間があるため、冷めるまで待っていては、勝負に負けてしまう。私達は熱さを堪えて食べ始めた。口腔が熱さで悲鳴を上げる。それでも私達は食べる。口腔の粘膜がやけどして、ベロンと剥がれているのがわかる。それでも食べる。何故か涙が出てくる。それでも食べる。何のために?それこそが男のロマンだからである。決してカレーライス代を無料にしようという、さもしい考えからではない。私をケチと呼ぶ女どもよ、おまえらにはわかるまい。
 そして、戦闘開始から二十分、私達の戦闘は終了した。結果、私も戦友も惨敗に終わった。完食できなかったのである。敗因を分析すると、ご飯とカレーの個別撃破にあったようである。ご飯だけ食べても、美味しくないのである。これでは食が進まない。そして、熱さへの備えもなかった。事前の偵察をしなかったことが最大の敗因であろう。
 勝負に負けた私達は、特大大盛カレーの高いお代を支払い、やけどで痛む口腔を気にしながら撤退したのであった。