不思議な出来事

 暑い。何もしていなくても汗が流れる。今日は湿度が異常な高さだ。だからと言って、仕事をサボるわけにはいかない。
 宅配便買取の代金を振込まなければならず、銀行まで歩く。強い風が吹いているが、湿気をたっぷり含んでいるので、ちっとも涼しくない。余計に汗が出る。道の向こう側から、7、8歳ぐらいの男の子が歩いてくる。彼も暑そうにうなだれながら歩いている。彼が私の1メートルぐらいまで近づくと、私の方を見て、「こんにちは」と言って、軽く会釈して通り過ぎる。反射的に私も、「こんにちは」と言ってみだが、私には彼の記憶が無い。私の知らないところで、子供がいたなどあるわけがない。近所にもそのような子供はいないはずだ。
 おかしいな、一体誰なのだろうと、考えながら歩いていると、急な坂道に差し掛かる。この暑さで坂道は少々きつい。額から流れる汗を拭って、坂道の頂を見上げると、何かが坂道を転がって落ちてくる。おや、なんだろうと見守っていると、おむすびがコロコロと転がって私の足元で止まった。坂道を見上げたが誰もいない。海苔がついた普通の丸いおむすびだ。どうして、おむすびが転がってくるのだろう。
 おむすびをそのままにして、私は坂道を登って行く。しかし、知り合いでもない少年に挨拶されたり、おむすびが転がってきたり、今日は不思議なことが起こる日だ。それでも、この湿気は下がらず、私の額からはまた汗が流れ落ちる。