人間の成長と経済の成長

 Mファンドのインサイダー取引の疑惑が世間を騒がせている。それより少し前に騒がれていたHエモンもやはりこの疑惑に絡んでいるとの報道である。
 一時期前にソビエトが崩壊した最大の原因は、人間の際限なき欲望の発動であったのであり、人間の欲望までは統制できなかったわけである。これは、現在の資本主義にもあてはまることであり、この人間の欲望が今回の事件の契機になっているのは間違いないのである。さらに上を目指す人間の欲望と成長しか認めない経済のシステム。この二つが合致すれば、今後もこのような事件が起こるのは確実である。そして、そのために捨て去られる人間の倫理。倫理が通用しない経済のシステム。経済のシステムに動かされる人間。さらには、経済のシステムを作り出す人間の欲望。悪魔の連鎖である。
 現在の日本社会では、会社組織に身をおくサラリーマン程、この悪魔の連鎖の影響を受けていると言っても過言ではないのであり、毎年営業成績が下位10%の人間を解雇する会社まであるそうである。常に増収増益を求められ、挙句の果てに、粉飾決済などが起きてしまうわけである。物質は有限であり、常に成長するなどということは絶対にあり得ないのであり、このまま成長のみを求める資本主義経済システムでは、社会の崩壊、人間の崩壊しか待ち受けていないのである。そして、世界に目を向ければ、資本主義システムが拡がっている現状では、最後に行き着くところは、資源の奪い合いであろう。もう既にそれは始まっているのであり、その最後の光景を想像するだけでも恐ろしい。人間の欲望が、社会主義のみならず、資本主義も崩壊させてしまうのである。
 無論、欲望がなければ進歩はない。しかしながら、常に進歩を求めるものを経済的な利益に求めるのではなく、人間そのものの進歩、換言すれば、倫理などの人間の内なるものに求めるべきなのではないかと思うのである。だが、人間の本能として種々の欲望が備わっている以上、無理な話なのであろうか。太古の昔から、欲望によって人間は戦争をし、あらゆる愚行を繰り返してきた。やはり人間に成長はないのであろうか。