無駄な一日
やっと確定申告も終わり、一息ついたので、これで枕を高くして眠ることができると思っていた矢先、携帯電話が鳴った。
「しまさん、いい情報を入手しましたよ」
この、はしゃいだ電話の声の主は、退屈男Mである。
「おまえ、なんだよ、こんな時間に。非常識なやつだな。声が大きくて耳が痛いよ」
「非常識って、もう朝の八時じゃないですか。実は、かなり眺めのいい露天風呂が山梨にあるんですよ」
「だから何なんだ。俺は寝るぞ」
「ちょっと待ってくださいよ。そこは入湯料が600円とリーズナブルなんです。貧乏なしまさんにもぴったりですよ」
「このタコ助。今月だけは俺は貧乏じゃないんだ。税金が戻ってくるからな。お前の情報はどうせどこかの雑誌で見たものだろ。だからミーハーな奴は嫌だよ。もう三月だしな、新しい特集を組まなければならないし、忙しいんだよ。それに俺じゃなくてもいいじゃないか。誰か他の女の子でも誘いな」
「いやいや、しまさん、車が運転できるではないですか」
「お前も正直な奴だな。俺が目当てじゃなくて、車が目当てか。山梨ぐらいだったら、電車で行けよ」
「どうせ、しまさんのことだ、電車は車より環境に優しいなんてウンチクを話すつもりでしょう」
「だからお前はタコ助なんだよ。俺は環境うんぬんなんていう軟弱な精神は持ち合わせていないよ」
「だって、しまさん、古本屋ではないですか。一応、リサイクル業界でしょ」
「このポン助。古本屋やってる奴で、環境問題を理由にしてやってる奴なんて一人もいないよ。さあ、俺は寝るぞ、と思ったがお前のせいで目が覚めちまったじゃないか」
「じゃあ、電車でもいいから行きましょうよ」
「しょうがねえ奴だな。じゃあ、横浜まで出てこいよ」
渋々横浜まで行くと、退屈男は手に缶ビールやカップ酒、つまみがたくさん入っているスーパーの袋を両手に持ち、嬉々とした顔をして立っていた。
「しまさんが電車と言った理由はこれでしょ」
「お前の頭でよくも考えたもんだな。だがな、ビールなんて今から買ったらぬるくなっちまうじゃないか」
「まあ、いいじゃないですか。旅は楽しくいかないと」
とりあえず、我々は横浜線で八王子まで行くことにしだが、横浜線の車内で、早速、退屈男がビールを飲み始めた。
「おい、お前は本当にゲスな野郎だな。通勤電車で酒飲む奴がいるかよ。せめて中央線の高尾以降で飲んでくれ」
「ま、いいじゃないですか。人生は楽しくなくっちゃ」
そう得意満面に退屈男は言って、もうひとつ缶ビールを開けて私に差し出した。仕方なく、私もビールを飲み始めた。そして、八王子に着いた頃にはカップ酒、ビールなど退屈男が買ってきたものは全てなくなってしまった。
「しまさん、あんたと同じで天気もどんよりしてますねえ。こんな天気じゃ、眺めがよくても意味がないんじゃないですかい」
「お前、もう酔ってるだろ。お前が今日誘ったんじゃないか」
そして、八王子から中央線に乗り換え、途中の高尾で退屈男はまた酒を買ってきた。
「珍しい酒があったんで、あんたに買ってきましたよ」
退屈男はカップのにごり酒を私に差し出した。
「おっ、確かにこっちでは見かけない銘柄だな。ご当地の酒ってやつか。少しは気が利くじゃないか。まあ、ここからは電車もボックス席になるしな、今までの数々の所業を許そうではないか・・・・。おい、この酒、製造元が東北じゃねえか。ほんとしょうがねえ奴だ」
また、我々は酒を飲み干し、山梨県へ入ったあたりの駅で、またまた退屈男がカップに入った赤ワインを買ってきた。
「今度は大丈夫ですよ。ここでしか買えんもんです」
「ほう、確かにこれは山梨でしか買えんな。やっとまともなものを買ってきたな。ただな、ビールやら日本酒やらを飲みすぎたから味がわかんねえや」
「ところで、しまさん、今から露天風呂に行くのって、めんどくさくないですか」
「このアル中め。お前が誘っといて、なんてこと言うんだ。でもな、俺も今、そう思っていたところだ。このまま風呂入っても体に悪そうだしな。しょうがねえな、横浜に戻って、いつものところで、飲みなおすか」
「そうしましょう。露天風呂はまたの機会ということで」
「お前も随分調子がいいな」
そして、我々は上り電車に乗り換えて、横浜へと戻って行った。
「しまさん、いい情報を入手しましたよ」
この、はしゃいだ電話の声の主は、退屈男Mである。
「おまえ、なんだよ、こんな時間に。非常識なやつだな。声が大きくて耳が痛いよ」
「非常識って、もう朝の八時じゃないですか。実は、かなり眺めのいい露天風呂が山梨にあるんですよ」
「だから何なんだ。俺は寝るぞ」
「ちょっと待ってくださいよ。そこは入湯料が600円とリーズナブルなんです。貧乏なしまさんにもぴったりですよ」
「このタコ助。今月だけは俺は貧乏じゃないんだ。税金が戻ってくるからな。お前の情報はどうせどこかの雑誌で見たものだろ。だからミーハーな奴は嫌だよ。もう三月だしな、新しい特集を組まなければならないし、忙しいんだよ。それに俺じゃなくてもいいじゃないか。誰か他の女の子でも誘いな」
「いやいや、しまさん、車が運転できるではないですか」
「お前も正直な奴だな。俺が目当てじゃなくて、車が目当てか。山梨ぐらいだったら、電車で行けよ」
「どうせ、しまさんのことだ、電車は車より環境に優しいなんてウンチクを話すつもりでしょう」
「だからお前はタコ助なんだよ。俺は環境うんぬんなんていう軟弱な精神は持ち合わせていないよ」
「だって、しまさん、古本屋ではないですか。一応、リサイクル業界でしょ」
「このポン助。古本屋やってる奴で、環境問題を理由にしてやってる奴なんて一人もいないよ。さあ、俺は寝るぞ、と思ったがお前のせいで目が覚めちまったじゃないか」
「じゃあ、電車でもいいから行きましょうよ」
「しょうがねえ奴だな。じゃあ、横浜まで出てこいよ」
渋々横浜まで行くと、退屈男は手に缶ビールやカップ酒、つまみがたくさん入っているスーパーの袋を両手に持ち、嬉々とした顔をして立っていた。
「しまさんが電車と言った理由はこれでしょ」
「お前の頭でよくも考えたもんだな。だがな、ビールなんて今から買ったらぬるくなっちまうじゃないか」
「まあ、いいじゃないですか。旅は楽しくいかないと」
とりあえず、我々は横浜線で八王子まで行くことにしだが、横浜線の車内で、早速、退屈男がビールを飲み始めた。
「おい、お前は本当にゲスな野郎だな。通勤電車で酒飲む奴がいるかよ。せめて中央線の高尾以降で飲んでくれ」
「ま、いいじゃないですか。人生は楽しくなくっちゃ」
そう得意満面に退屈男は言って、もうひとつ缶ビールを開けて私に差し出した。仕方なく、私もビールを飲み始めた。そして、八王子に着いた頃にはカップ酒、ビールなど退屈男が買ってきたものは全てなくなってしまった。
「しまさん、あんたと同じで天気もどんよりしてますねえ。こんな天気じゃ、眺めがよくても意味がないんじゃないですかい」
「お前、もう酔ってるだろ。お前が今日誘ったんじゃないか」
そして、八王子から中央線に乗り換え、途中の高尾で退屈男はまた酒を買ってきた。
「珍しい酒があったんで、あんたに買ってきましたよ」
退屈男はカップのにごり酒を私に差し出した。
「おっ、確かにこっちでは見かけない銘柄だな。ご当地の酒ってやつか。少しは気が利くじゃないか。まあ、ここからは電車もボックス席になるしな、今までの数々の所業を許そうではないか・・・・。おい、この酒、製造元が東北じゃねえか。ほんとしょうがねえ奴だ」
また、我々は酒を飲み干し、山梨県へ入ったあたりの駅で、またまた退屈男がカップに入った赤ワインを買ってきた。
「今度は大丈夫ですよ。ここでしか買えんもんです」
「ほう、確かにこれは山梨でしか買えんな。やっとまともなものを買ってきたな。ただな、ビールやら日本酒やらを飲みすぎたから味がわかんねえや」
「ところで、しまさん、今から露天風呂に行くのって、めんどくさくないですか」
「このアル中め。お前が誘っといて、なんてこと言うんだ。でもな、俺も今、そう思っていたところだ。このまま風呂入っても体に悪そうだしな。しょうがねえな、横浜に戻って、いつものところで、飲みなおすか」
「そうしましょう。露天風呂はまたの機会ということで」
「お前も随分調子がいいな」
そして、我々は上り電車に乗り換えて、横浜へと戻って行った。