手ぶら傘

 いつものように日曜といえども、雨の中を郵便局まで発送しに行かなければならなかった。しかし、傘を差しながら歩くと片手が塞がってしまい、全ての発送分を持つのは不可能となってしまう。生憎、私はレインコートというものを持ち合わせていない。どうしたものかと思案していると、東南アジアへ行ったお土産として友人から貰った、手ぶら傘の存在を思い出した。この傘は、柄の部分が無く、そのかわりにゴムの輪が取り付けられているもので、ご想像の通り、頭にゴムの輪を装着して、傘をさすというものなのだ。頭に装着すれば、当然両手が空き、荷物を持つことができるというわけなのだ。
 素晴らしい便利な傘なのに、どうして日本人は利用しないのだろうか。この際、使ってみるしかない。しかし、問題は傘の色がビーチパラソルのように赤色と黄色が交互に配色されていて、センスのないデザインなのだ。これでは、せっかくの機能的な傘も台無しだ。しかも、これを装着して街を歩いたら、変人と思われるかも知れないし、警察に職務質問されるかも知れない・・・。
 悩んだ挙句、今ここで第一に考えなければならないのは、一刻も早く本をお客様にお届けすることだし、いかに雨に濡らさずに郵便局まで運ぶかということなのだ。少し頭を冷やせば簡単なことで、荷物をリュックサックに入れ、さらにリュックサックをビニール袋で覆ってしまえば、濡れずに運ぶことができるのだ。
 熟慮の結果、残念ながら手ぶら傘の使用は延期し、雨の降る中、大きなリュックサックを小さな背中で背負いながら、まるで遠足へ行く子供のような格好で、私は郵便局へと歩いて行ったのだった。