謎の夫婦

 我が家の前にパトカーが止まった。とうとう、しましまブックスもガサ入れが行われるほど有名になったかと悦に入っていたのであるが、心当たりがない。小さな小さな古本屋には、耐震偽造に粉飾決算いずれも関係がないのである。窓から様子を窺うと、どうも中年の夫婦らしき二人が警察官に職務質問を受けている。そして、旦那の方が警察官に向かい、声を荒げて怒っている。奥さんらしき人は、すすり泣いている。最初は、車の軽い接触事故か何かではないかと思ったのだが、旦那の方が、自分は不動産屋と待ち合わせをしているだけだと、警察官に怒鳴っている。その状況を総合的に判断するに、この夫婦らしき二人組は、かなり不審な様子で近所をうろうろしていたらしく、それを見た近所の誰かが警察に通報したらしいのである。
 うろうろしているだけで通報する近隣住民も少し過剰な反応であるが、この夫婦もかなりのオーバーリアクションである。本当に物件を見に不動産屋と待ち合わせをしているのであるなら、何も怒ることはなく、すすり泣くこともない。冷静に説明をし、不動産屋へ確認の電話なりをすれば済むはずである。疑えばきりがないが、もう少しでゴールデンウィークであり、家を空ける人も多くなると思われ、空き巣へ入る為の下見と言えないこともないのである。
 しかし、誰が通報したのだろうか。目の前で梱包作業をしていた私が気づかなかったのに。そして、何故我が家の前で? しましまブックスは本以外、価値のあるものは何もないのであり、狙うものとしては、本ほど割に合わないものはないのである。それに、しましまブックスは、ゴールデンウィークに旅行へ出かけるほどの余裕はない。では、やはり、物件を見に来ただけなのであろうか。謎が深まるばかりである。