ケチな古本屋よりケチ

 プリンターを使って印刷していたら、「インクがありません」との表示が出た。この表示が出ても、実はかなりの量を印刷できるのだ。うっかり、この時点でインクを換えてしまうと、随分と無駄をすることになる。経費削減。ケチな古本屋しましまブックスでは当たり前のことなのだ。
 そろそろ詰め替え用のインクでも買っておこうと思っていると、後輩のNから電話で、今から我が家へ来るという。それは好都合とばかりに、来るついでにインクを買って来るようにと指示を出した。
 そして数十分後、彼がやって来たのだが、手には何も持っていない。
「おいおい、インクが無いじゃないか。その歳でモウロクしちまったか」と私が言うと、
「いや、貧乏な古本屋に、愛の手を差し伸べようと思いましてね」と彼は得意気になって言った。
「それじゃあ、インクでも奢ってくれるのか」
「違いますよ。ちょっと、水道を借ります」
 と彼は言って、持参したスポイトに水を入れて、その水をインクのケースにぽたぽたと入れはじめた。
「おい、何をするんだ?理科の実験か?酸性が赤で、アルカリ性が・・・・」
「いや、少し色が薄くなりますが、水を入れるとまだまだ使えるんですよ。貧乏な古本屋にはもってこいの節約術でしょう」
「お前もとんでもないケチな野郎だな。しかし、まだまだ俺も経費削減を考えなければならないな。夢は大きく、経費は小さくだな」
「そうです。何事も節約が大事です」
「うむ。今日は、ソナタのお手柄だ。褒美に一杯酒を呑ますぞ。苦しゅうない、苦しゅうない」
 そして、我々は居酒屋へと行き、気がつけば、インク代をはるかに超える酒代を払っていたのだった。