この人、何者だろう?

 先週の金曜日、友人の村川君と横浜スタジアムへ野球を観に行くことになった。9月にもなると、球場は空席だらけだから、なにも正規の窓口で入場券を買う必要もなく、また、定価で買うのも馬鹿らしいということになり、関内の近くの金券ショップへ行った。
 金券ショップでは、内野自由席が一人1800円ぐらいで、外野指定席がペアで4000円ぐらい、オーナーズシートや内野指定席がペアで最低5000円ぐらいから売られていた。お店の人に尋ねると、外野指定席はもう少し安くすると言う。しかし、その外野指定席がヤクルト側だったので、これは買えない。内野指定席を値切ってみると、委託商品なので安くできないと言う。ということは、外野指定席はお店が買取ったということなのだろう。試合開始まであと数十分。試合が終わってしまえば、売れ残りのチケットは紙くずになる。お店は大損。是が非でも売りたいだろう。交渉しだいでは外野指定席はもっと安くなる。同じ古物商として、申し訳ないがここは買い叩くか・・・・。しかし、ヤクルト側・・・・。横浜ファンとしてやはりヤクルトに魂は売れない。
 熟慮の末、5000円のオーナーズシートを買うことにして、店員さんにその旨を告げようとしたその時、20代半ばから後半ぐらいの歳だと思われる、容姿端麗、一見するとOL風の女性がお店に入ってきた。店員さんがその女性に「いつもありがとうございます」と言って深々と頭を下げた。うーん、常連さんだろうか。相当の野球好きで毎試合ここからチケットを買っているのだろうか。少し観察していると、バッグの中から内野席自由席や指定席のチケットを出して、「また、お願いします」と言う。この女性は販売委託の常連らしい。もうすぐ試合も始まってしまうので、あまり長く観察はしていられないので、5000円のチケットを買うと店員さんに言うと、突然横からその女性が、「それを買うのでしたら、こっちのチケットも場所が一段しか変わらないんで」と言って、すぐ隣に置いてあったチケットを指差す。そのチケットはペアで6000円の値が付けられていた。どうやらそのチケットはこの容姿端麗な女性の委託品らしいのだ。「少し安くします。4900円でどうですか?」と女性は言う。すかさず私は「100円では大差がなくて決め手になりませんなあ。4000円ってのはどうです?」と言うと、その女性は「4000円というのはあまりにも・・・・」と渋る。交渉している時間もあまりないので、また私は「それじゃあ、中をとって、4500円で」と言って交渉成立。バックネット裏が一枚2250円で手に入った。
 しかし、この女性は何者だろう。常連らしいので、大量に野球のチケットを委託で販売しているのだ。古物商として興味がある。普通の金券ショップだと、委託料は売値の2割が相場。今回女性には3600円がお財布の中に入る計算になる。ただ、相当数委託していた形跡があるので、どのくらいの利益を手にしているのだろう。そして、どこから仕入れてくるのだろう。まさか、自分で年間のオーナーズシートを買っているわけではあるまい。容姿端麗なので、会社の上司や、取引先の会社などから、会社で買っているチケットを貰うことができるのだろうか。それとも関内あたりのクラブで働いていて、そこに来るお客さんなどから貰っているのだろうか。謎多き美人である。
 友人の村川君は「よくもずうずうしく値切れるねえ」と言った。「バカヤロウ。貧乏人はこのぐらいまでしなければ、野球など観ることができないのだ。それに、あのお色気にも負けなかったぞ。おまえと見るぐらいだったら、あの女性と一緒に観たかった」と私は言った。
 それにしても、あの女性は一体何者なのだろう。