逆押し売り

 昼間、必死になって古本と格闘していると、ドアのインターホンが鳴った。そういえば、最近は忙しくてなかなか退屈男Mの相手もしていないので、退屈男Mが退屈しのぎにやってきたのかな、と思ってドアを開けると、そこには女の人がひとりで立っていた。こりゃまたどうして、『しましまファン』が私に会いたくてはるばるここまで来てしまったのかな(そんなことは、まずあり得ない。ただ書いてみたかっただけ)と思っていると、なんのことはない、宗教の勧誘だった。しかも、毎月発行するパンフレットを私に渡そうとするではないか。いつもの私なら、迷わず受け取らずに追い返すのだが、今日に限っては、その女性があまりにも美人だったので、つい受け取ってしまい、
 「いやあ、実はうちは古本屋でござんして、宗教関係の古本も多少ありましてなあ、意外と私も宗教には造詣があるのですわい、わい、わい」と、相手に合わせた軽快なトークからデートのお誘いに持っていこうと思いきや、男である前に、私は商人である。
 「ちょっとお待ちなせえ」と言って、本棚から宗教関係の本を数冊持ち出して、「これがオススメの宗教関係の本でござんす。右から、これが6,500円、2,800円、1,000円・・・・」と商売を始めると、その女性は怪訝な顔をしたので、
 「別にあっしは怖い人ではござんせん。もちろん、臭い飯など食ったことがない、善良な市民でござんす。わかっております、せっかくはるばる本を買いにきていただいたんだ、うちの狭い庭で採れたミョウガをプレゼンといたしやしょう。当然無農薬でござんす。ノラ猫の小便が肥料になっているかも知れませんがね。とっても美味しゅうござんす。自然に生えていたもので、まさに冥加でござんせんか。あらま、あっしもうまいこと言うなあ」と私が言うと、彼女は泣き出しそうになって、逃げるように帰ってしまった。来月も布教のパンフレットを配りに来るのか、それとも来ないのか、多分もう二度と私のところへは来ないのだろうな。