あついです

 異常な暑さが続いている。けれども、日本人は働き続ける。本当に勤勉である。率直な感想は、暑くて仕事をする気が起きない。けれども社会のシステムが、このような酷暑でも働くように出来上がってしまっている。遠い子どもの頃の記憶だと、夏といっても気温が三十度を超える日は、少なかったような気がする。三十五度になったような記憶はほとんどなく、夜になれば多少は涼しかったような気がする。そのような状態であれば、昼間働くこともできるが、現在の異常な暑さでは、やはり働くことが辛くなってしまう。
 世界を見れば、常に暑い国などは、昼間はほとんど働かないという。少し働いては休憩して、また少し働いては休憩して・・・・。さらには、昼間は働かずに、日が落ちた頃に少し働き出すところもあるという。それに比べて日本は、冬と変わらぬ働きぶりである。これでは、体と心がこの暑い夏の間にへばってしまう。
 だから、結局のところそんな言い訳で、最近は古本の新入荷のアップがあまりできていない。さらには、夏は本が売れない季節であり、売上が悪い。どうせ売れないのだからと、これがまた言い訳になって、新入荷のアップをまたやらなくなる・・・・。
 そんなことを言っても仕方がない。閑話休題。あまりの暑さについうっかり、ということがある。たまに行くラーメン屋のご主人は、顔なじみでも普段は絶対に話すことがない。よくいる頑固おやじ風で、「いらっしゃいませ」も言うことがない。ところが先日、暑い中、そのラーメン屋に行くと、隣に座っていた客が注文したラーメンを厨房から出すとき、「あついです」とぼそっと口を開いた。頑固おやじの声をはじめて聴いたのである。あまりの暑さに、ついうっかり口からこぼれた言葉なのだろうと思って頑固おやじの方を見ると、頑固おやじの親指が、ラーメンのスープに入ってしまっているのだった。「あついです」は「暑いです」ではなくて、「熱いです」だったのである。そして、頑固おやじは、その後は何も声を出さずに、黙ってラーメンをつくりなおしていた。さすがの頑固おやじも暑さで疲れているのかも知れない。