嗚呼、恥ずかしい

 個人的な契約書やら、そういった類の書類を書く時、勤務先や、そこでの肩書き、おおよその年収などを書き込まなければならないことが多い。私の場合、なんとなく周囲をびっくりさせたくて、しなくてもいいのに株式会社にしてしまい、そしてまた、一応は私が100%当社の株式を保有しているので、取締役会長なんて肩書きもつけてしまって、とにかく、全てが洒落と申しましょうか、なんとなく、面白くしようと思ってしてしまったことなのだが、これがまた、いけない。
 昨日、ひとつ口座をつくろうと思って、証券会社へ行くと、やっぱり書かされるのね、その書類。カウンター越しの受付のおねえさんの目が、やっぱり注目している、会社名と、その肩書き。ああ、恥ずかしい。やっぱり、そんなことしなければよかったと思いつつ、書き込むと、おねえさんは、「これは、株式会社 ほほブックスグループですか? 非上場会社ですよね」と言う。ああ、違う。もっと恥ずかしい。私は字が下手なので、「しましま」と書くと、時として、「ほほ」と読まれてしまう場合がある。「いえ、『しましま』でございます」と私は、俯くしかなかった。この場を乗り切ろうと、「ほほ・・・」と笑ってみたけれど、その笑いはおねえさんに無視されてしまった。しかも、見てる見てる私の肩書き。
 続いておおよその年収を書くのが、一番恥ずかしい。株式会社の会長が、ほんとうにその年収なの?! みたいなその視線。ああ、嫌だ。「古本屋とは、こんなもんさ!」と言いたいがそうとも言えず、「あの、所謂、洒落なのですけれども」とも言えず、やはり、私は俯いて顔を赤くするしかなかった。そして、ふと気がつけば、窓口が閉まらないうちに行かなければと思い、寝起きで家を飛び出したので、髪は寝グセのままで、髭は剃っていないし、昨日夜おそくまでお酒を大量に飲んでいたもので、そのままで寝てしまい、さらに服は昨日のままだし、服のシワはすごいし、一体私は何なんだ? と思ってしまい、まともにおねえさんと視線を合わせることができなかった。
 小心者のシャイ・ボーイでありながら、こういうお粗末なことをしてしまうこの私は、やはり一体何なのだろうと思い、心の中で、こう呟くしかなかった。「私にとって、人生そのものが、所謂、洒落なのです」