壁に飾ってあるもの

 パソコンの前に座っていることが大半の為、パソコンの後ろの壁に、何か素敵な絵でも飾りたいと前から思いつつ、未だに実現できていない。今現在壁に飾っているものは、他人が見たら、「なんじゃこりゃ?」と思うかも知れないものを、いや、必ずそう思うものを額縁に入れて飾っている。
 私が今から三年ぐらい前に、町医者で健康診断を受けた時のことである。医者から肺に異常があると言われ、以前に撮った肺のレントゲン写真と比べて見たいから、前回健康診断をした病院へ行き、レントゲン写真を貰ってこいと言う。その時、私はかなり重大な病気であると悟って絶望的になり、これが最後とばかりにヤケ酒を飲み、お世話になった友人達にさようならとだけメールを送り、身辺整理をしたことを覚えている。
 数日後、病院から受け取った、以前のレントゲン写真を町医者に見せると、眉と眉の間に神経質そうな皺をつくりながら、ふたつのレントゲン写真を見比べて「むむ、肺が汚い」とひと言唸った。一体それはどういう意味なのか、と思っていると、「以前、喘息であったか?」と訊かれた。確かに、私は子供のころに喘息を患っていたので、「はい」と答えた。すると、医者は「喘息をすると肺が汚くなるのだ。それなら異常はない」と言った。それを聞いて、安堵したと共に、何か拍子抜けしたことを覚えている。今でも、白黒のレントゲン写真だけを見て医者が言った「肺が汚い」の意味がわからないのだが。
 そして、病院から受け取ってきたレントゲン写真が私に返却されたのだが、滅多に自分の肺のレントゲン写真を手にすることはないので、記念に木の額縁に入れて、パソコンの後ろの壁に飾ったのだった。
 今でも、パソコンのディスプレイから顔を上げると、白い骨となにやらよくわからぬ無数の筋みたいなものが写っている私の肺のレントゲン写真を見ることができる。一度は絶望した私の肺のレントゲン写真なのだ。それを思うと、やはり素敵な絵と交換するわけにはいかないのだ。