眼鏡

 朝、目を覚ますと、いつもベッドの脇においてあるはずの眼鏡がない。うむむ、これは盗人にでもやられたかなと思ったが、眼鏡を盗む人間もいないだろうと思い直し、探していると、自分の身体の下にそれはあった。どうやら眼鏡をかけながら寝てしまったらしい。拾い上げると、眼鏡のフレームは曲がってしまっていた。自分の力で元に戻そうと試みたが、かけてみて違和感がある。生憎、使い捨てのコンタクトレンズは全て使い切ってしまっている。仕方なく、以前に使っていた黒縁の眼鏡をかけることにしたのだが、今の視力と度数が合わず、これまた違和感がある。しかしこの黒縁眼鏡を使うしか方法がなく、今日一日は不便な生活を強いられた。
 この際、思い切ってお洒落な眼鏡でも買おうかと、眼鏡屋へ行き、二十代前半ぐらいの女性の店員さんに、「すいません、笑福亭笑瓶がかけているお洒落な眼鏡はありませんか?」と尋ねると、いきなりその店員さんはプッと吹き出して、必死に笑いを堪えている。そして、似ている眼鏡ならあるが、同じものはないと言って、他の眼鏡を私に勧めた。どうやら彼女にとって、笑福亭笑瓶の眼鏡はお洒落ではないようなのだ。私は一番のお洒落眼鏡芸人だと思っていたのだが。
 結局、その店では眼鏡を買わなかった。他の店もまわったが、自分が気に入る眼鏡はなかった。眼鏡は顔の一部なのだから、自分が納得するものと出会うまで、妥協せずに探すしかなさそうだ。笑われないものを・・・・。