刈上げ

 我々のような小さな商売は、どだいその日暮らしである。したがって、この先のことを考えると恐ろしくなり、どうしても財布の紐を締めてしまう。私はほとんど自分のために消費はしないのであるが、女性や年下の人間にはどうしても、「This is on me」と言ってしまう有様で(本当ですよ、ホント)本当に困ったことなのである。
 なので、何か自分のためにお金を使おうと思うと、どうしても、「この本が売れたら、これを買おう」という考えになり、欲しいものは永遠に買うことが出来ないということになってしまうのである。実は、先日も「この本が売れたら、芸能人が行くような青山あたりのサロンで髪を切ってもらおう」と思っていたのだが、何日経っても該当する本が売れない。このままだと、恐ろしくこ汚い格好になってしまうので、渋々諦めて、かなり年季の入ったご老体が経営している床屋へ行った。とにかく短くして貰いたかったので、店主に一言、「とにかく短くしてくれ」と言うと、店主は深々と頷いて、私の髪を切り始めた。
 チョキチョキチョキ、チョキチョキ・・・ガリガリガリガリ・・・、あれ、音が変わった、そう思うが早いか、バリカンで後頭部と側頭部を刈り始めたのである。おおおっ、と思っているうちに、私の頭は刈り上げカットになってしまった。かりあげ君なんて漫画があったが、それにそっくりな私になってしまったのである。
 私が刈上げに動揺を隠せずにいると、その店主は独り言のように、「刈捨て御免」とだけ声に出したのであった。