カラスとの死闘

 我が家の周辺にカラスが飛来することがある。電線などの高い場所にはとまらずに、我が家の低い柵の上にとまったりする。以前、やけに近くでポッポコポッポコ鳴き声がするので、我が家のまわりを点検すると、軒下に山鳩が巣をつくっていたことがあり、その山鳩は卵をあたためていた。ところが、それを標的にしたのか、カラスが柵の上から山鳩の巣を眺めているではないか。 自然の原理からいえば、動物の世界は弱肉強食の世界であり、熾烈な生存競争を演じているわけであるから、ここは手出し無用なのであるが、どうしても判官贔屓になってしまうのが人の常である。また、私の家で殺生をしてもらっては困るのである。
 私はカラスを撃退すべく、柵の上にとまっているカラスに近づいたが、カラスは一向に動こうともしなかった。ふと、子供や女性がカラスに襲われたはなしが私の頭の中によぎった。近くでカラスを見てみると、嘴が大きく異様に鋭い。まるで、黒いハサミのようである。その嘴を見て、正直、私は怯んだ。しかし、ここで退いてはならない。私は、カラスから三メートルぐらいの距離を置き、睨み付けた。カラスも鋭い眼光で私を睨み付ける。中学生以来の眼の飛ばし合いである。今まで眼の飛ばし合いに勝ったことのない私は、ここで過去の屈辱を挽回しなければならない。一秒が永遠に感じる。一体、どのぐらいの時間が経過したのだろうか、短兵急にカラスが大きな翼を広げた。私はすかさず、ファイティングポーズをとった。しかし、カラスは私を襲撃することなく、空高くどこかへ逃げ去ってしまった。「アホカー、アホカー」と鳴き声をあげながら。何か馬鹿にされたような感じであったが、とにかく私はカラスに勝ったのである。
 私の大勝利のおかげで、山鳩は無事に巣立っていった。その後、私に敗北したカラスかはわからないが、懲りずに二、三の仲間と家の柵にとまったりするので、あの時、生け捕りにして、捕虜にしておけばよかったと少し後悔しているのである。