花火の思い出

 とうとう8月に入った。この季節は各地で花火大会が開催されている。最近、しましまブックスもおかげさまで忙しくなりはじめており、花火など見に行く余裕もなく、私はまだ、今年になって一度も花火大会へは足を運んでいない。
 花火で思い出すのが、私が学生の頃、山下公園で行われた花火大会である。当時、私は人ごみが嫌いで、かなりの人出が予想される山下公園の花火はなるべくなら避けたいところだったのであるが、その時付き合っていた彼女にせがまれて花火を見に行くことを了承してしまったのである。
 当日になると嫌な気持ちがさらにも増して、人でいっぱいの行き帰りの電車の中を想像するだけで気持ちが悪くなってしまい、待ち合わせ場所を現地に変更して、私は家から自転車で山下公園へ行くことにしたのであった。この作戦は、自分には十年に一度の名案だと思え、颯爽と自転車を走らせたのであった。しかし、気温と距離をあまり計算に入れておらず、途中上り坂などがあり、結局、くたくたになりながら待ち合わせ時間に1時間も遅れて到着したのであった。待ち合わせ場所に到着した時、彼女は、清楚なゆかたを着て立っていた。対してこの私は汗でぐっしょりと濡れて皺だらけのTシャツ一枚。しかも、もう花火は始まっている。その時彼女は、怒るわけでもなく、ただ悲しそうに私を見ていた・・・・。
 花火が終わり、私は自転車の後ろに彼女を乗せようとしたが、彼女は拒絶し、ひとりで電車に乗って帰ってしまい、また私は辛い帰り道を、汗だくになりながら、自転車を走らせたのであった。
 それから間もなく、その彼女とは別れた。この出来事が原因かどうかは今でもわからない。ただ、花火を見るといつもこの時のことを思い出すのである。